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■財産分与の義務を負う側（通常は夫）の経済状況の整理

　　　　　　　　　　　　　収入の多寡　　　　　資産の多寡

　　　　　　　　　　Ⅰ　　　　　多い　　　　　　　　多い

　　　　　　　　　　Ⅱ　　　　少ない　　　　　　　少ない

　　　　　　　　　　Ⅲ　　　　　多い　　　　　　　少ない

　　　　　　　　　　Ⅳ　　　　少ない　　　　　　　　多い

（Ⅰ）は分かりやすい。高収入で所有する資産も多い人、すなわち裕福な人である。

（Ⅱ）も分かりやすい。低収入で資産がほとんどない人、すなわち困窮者である。

（Ⅲ）は、収入は多いが、浪費家で貯金などがほとんどない人である。

　このような人も少なくない。よく言えば「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質を引き継ぐ粋な人とも言えるが、堅実志向の妻にとっては迷惑だろう。

　（Ⅳ）は個人としての収入は少ないが親の財産を相続した等の理由で資産は豊富にあるという人である。

　これを上記裁判例に戻って説明すると、例えば、財産分与の義務者（通常は夫）との間において夫婦共同で築き上げた財産はないものの、夫がそれ以外の資産を有していたり（上記Ⅳの類型）、将来も安定した収入が見込める場合（上記Ⅲの類型）には、清算的財産分与は認められないが、扶養的財産分与は認められる余地があるということであろう。

　ただ、このように財産分与の持つ扶養的性質を補充的なものと捉えることによる弊害もあり得る。

　すなわち、この考え方を強調すると、相手方配偶者に資産・収入のいずれもなければ、清算的財産分与は勿論のこと扶養的財産分与も受けられないことになる（上記Ⅱの類型）。そうすると、結局法的には離婚原因が明確に存在するにも拘わらず、離婚することを躊躇してしまうということがありえ、現実にもそのような状態に置かれた妻は決して少なくないと思われる。法が離婚原因を詳細に定めている以上（民法７７０条１項各号）、それが明確に存在する事案においては、安心して離婚することができるという社会的仕組みを構築すべきであろう。

　また、扶養的財産分与には、清算的財産分与のみならず慰謝料的財産分与の補充的役割を持たせるべきという発想も重要であろう。すなわち、判例・通説的な見解によれば、慰謝料的財産分与が認められるためには、相手方配偶者であることが前提になっているところ、実際の事案によっては、相手方配偶者（夫）が無責の場合であっても、離婚によって妻が「妻たる地位」を失うことは事実であり、それに伴う精神的苦痛を補うための慰謝料請求権を認めた方が良いという場合もあると思われる。このように、相手方配偶者の有責性と結びつかない慰謝料というのもあるはずで、これを概念上、慰謝料的財産分与に含ませることができないとすれば、扶養的財産分与に包含されると解するしかないのではないかと思う（本沢「研究」２９５頁参照）。

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（「ほんとにあった不倫の修羅場」　日本博識研究所・著　から一部引用しています）

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